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鹿児島地方裁判所 昭和23年(行)55号 判決

原告 田代清重

被告 鹿児島県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告が昭和二十三年一月三十日なした別紙目録記載の農地につき末吉町農地委員会がなした決定を正当と認め右農地を自作農創設特別措置法第三条第一項第三号該当の小作地であるとした裁決はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求の原因として、

別紙目録記載の農地は原告の所有地でもと訴外妹尾与に賃貸小作させていたが、昭和十六年三月一日鹿児島地方裁判所による小作調停において原告と右妹尾与との間に

(一)小作料を一ケ年玄米四斗とし昭和二十一年六月二十日迄継続小作させること。

(二)小作人は前記小作料を毎年その年分を翌年一月末日までに地主方に持參して支払うこと。

(三)小作人において右期間内に前記小作料を納付することができない正当の事由があるときはその旨地主に申出で同年二月末日まで猶予を乞ひうること。

(四)小作人において以上の条項に違反したときは即時地主に対し本件土地を返還すること。

(五)小作人は昭和二十一年六月二十日の期間経過後は本件土地を何等の異議要求なく地主に返還すること但し地主は農地調整法第九条第二項第三項に從うべきこと

等の条項のもとに調停が成立しこれにつき同地方裁判所の認可決定をえていたところ右小作人妹尾与は昭和十九年度の小作料を昭和二十年三月十五日に支払ひ昭和二十年度分は昭和二十一年二月二十四日に支払つたが右遲滯については原告の同意を得ていなかつた。それで前示(二)(三)(四)の調停条項にもとずき小作人妹尾与の本件農地についての小作権は消滅したから同人は原告に対し右土地を返還せねばならなかつたがこれが履行をしないので原告は昭和二十一年七月十三日鹿児島裁判所執行吏篠崎与吉に委任して本件農地引渡の強制執行をしたじらい右農地は原告においてこれを自作しているしかるに訴外末吉町農地委員会は右小作人からの自作農創設特別措置法施行令第四十三条による請求に基き昭和二十二年十一月十四日本件農地を原告が農地調整法第三項の手続を経ずして不法に取上げた農地であり昭和二十年十一月二十三日現在において自作農創設特別措置法第三条第一項第三号該当の小作地であるとして買收計画を定めた、よつて原告はこれに対し異議の申立をしたところ棄却されたので更に訴願したが被告は昭二十三年一月三十日「本件強制執行による農地の明渡は所謂強制取上げであり且つ農地調整法第九条第二項第三項の手続を遵守していないものであり右取上は適法且つ正当なものとは認め難いから自作農創設特別措置法第六条の二により昭和二十年十一月二十三日現在に遡及するとき本件農地は明かに同法第三条第一項第三号に該当の小作地であるから買收さるべき農地である」と裁決して原告の訴願を棄却し原告は右裁決書を昭和二十三年二月十七日受領した。しかし強制執行による農地の取上の場合農地調整法第九条第三項の手続を必要とせぬことは言を俟たぬところであるから本件農地の取上は適法であるといわねばならずこれを不法取上と解し昭和二十年十一月二十三日現在において右が小作地であるとして買收計画を定めた末吉町農地委員会の処分は違法であり右違法な買收計画を適法であるとしてなした被告の本件裁決も明かに違法であるよつてこれが取消を求むるため本訴請求に及ぶと陳述した。(立証省略)

被告訴費代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、

訴外末吉町農地委員会が本件農地が本件農地の小作人妹尾与よりの自作農創設特別措置法附則第二項同法施行令第四十三条の買收請求により昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基づき本件農地を自作農創設特別措置法第三条第一項第三號該当小作地として買收計画を定めたことこれに対する原告の異議訴願がいづれも棄却され被告がその主張のような内容の裁決をしたこと原告と右妹尾間に原告主張の日主張のような条項からなる小作調停が成立したこと、原告が右小作調停書正本を債務名義としてその主張の日本件農地につき引渡しの強制執行をなしたことはいづれもこれを認めるしかし本件農地は右小作調停の条項に照らしても昭和二十年十一月二十三日現在において小作地であるばかりでなく原告は右小作調停書を債務名義として強制執行により本件農地を取上げたが右は農地調整法第九条第三項の県知事の許可をえなかつたから違法な取上げであり自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一號の賃貸借の賃貸借の解除解約が適法且つ正当な場合に該当しないから訴外末吉町農地委員会が本件農地につき遡及して買收計画を定めたのは相当であり右買收計画には何等違法の点はなくしたがつて本件裁決にも違法な点はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

訴外末吉町農地委員会が訴外妹尾与の遡及買收の請求に基き昭和二十二年十一月十四日原告所有の別紙目録記載の農地につきそれが昭和二十年十一月二十三日現在において自作農創設特別措置法第三条第一項第三号該当の小作地であるとして買收計画を定めたこと原告がこれに対し異議を申立てたところ同委員会でこれを棄却し更に被告に訴願したところ被告が原告主張の日主張のような理由で右訴願を棄却したこと昭和二十年十一月二十三日現在において本件農地が小作であつたことはいづれも当事者間爭のないところである。

原告は本件農地につき遡及して買收計画を定めたのが違法であると主張するからこの点につき檢討を加えたい。

本件買收計画が定められた時は第一次改正前の自作農創設特別措置法の施行当時であり同法附則第二項によれば市町村農地委員会は相当と認めるときは命令の定むるところにより昭和二十年十一月二十三日現在における事実に基づき農地買收計画を定めることができるのであり同法施行令第四十三条には小作農から遡及買收の請求があつたときは市町村農地委員会は昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き買收を定めなければならないと規定してあるしかし同施行令はそれを委任した法律の限度内においてのみ效力があるものであるから遡及して買收計画を定むるのは如何なる場合でもこれをなしうるものではなく遡及して買收するのを相当と認める場合でなければならない。次に遡及を相当とするや否や判定の基準として昭和二十二年十二月二十六日公布の同法收正法第六条の二第二項が参酌さるべきことは勿論である。しからば本件は果して遡及買收を相当とする場合であるか否かにつき按んずるに原告と訴外妹尾与との間に本件農地につき原告主張の日主張のような条項からなる小作調停が成立したこと右調停調書正本を債務名義として原告が執行吏に強制執行を委任しこれにより原告が昭和二十一年七月十三日本件農地の引渡をうけたことは当事者間爭ひがない。

しかして右小作調停では小作人たる妹尾与において右調停条項に違反したときは即時地主たる原告に対し本件土地を返還すること(前示条項(四))の約定が成立しているがそれはもし小作人においてその年の小作料を翌年の一月末まで支払うことができずそれにつき正当な事由があるときは原告にその旨申出でその承認をうるにおいては翌年二月末日まで猶予してもらへるがさような手続を経ないかぎり一月末日支払うべき小作料を支払わないときは前示(四)の条項によりて本件小作契約は当然に終了し小作権は消滅する趣旨の契約であると解しなければならない。換言すれば前示調停により成立した本件契約は小作人において調停条項に違反する行爲があつたときは当然に右小作契約が終了することすなわち調停条項違反を解除条件契約であると解しなければならず当時は農地調整法第九条第七項(昭和二十四年六月の改正により新設)の施行されていないときであつたので右解除条件は有效なものであるといわねばならない次に原告が昭和二十一年一月末日に支払をうくべき小作料を翌二月二十四日に支払ひをうけたことは原告の自認するところであり右につき原告の猶予をえていたことについては被告において何等立証しないところであるから本件賃貸借は前示調停条項(二)に違反したものとして解除条件の成就により昭和二十一年一月末日当然終了したものといわねばならない。しかして当時の農地調整法第九条第三項(昭和二十一年十月二十一日改正前)にいう解約とは民法第六百十七条にいう解約であり当時は解除について県知事の許可を必要としなかつたばかりでなく解除条件はこれを定めないものとする規定もなかつたのであるから本件小作契約は右解除条件の成就により当然終了したものといわねばならずこれについては県知事の許可を必要とする法律上の根拠は何等存在しない。しかし本件小作契約が終了したのが昭和二十一年一月末日であるにかゝわらず原告は直ちにこれが明渡の強制執行をなさずその執行文付与を受けた日が昭和二十一年七月五日であつたことは成立に爭ひのない甲第一号証により明かであり一方その前年度の小作料を昭和二十年三月十五日(弁済期は一月末)に受領したことは原告の自陳するところであるなお前示調停条項には小作料を弁済期に納付できない正当の事由があるときはその旨を原告に申出で同年二月末日まで猶了を乞うことができることになつてなつており本件においては右訴外人から原告に対し弁済の猶予方を申入れたことの証拠はないこと前認定のとおりであるが証人白浜行雄、加藤正義の証言によれば昭和二十年度の小作料の支払を滯納したのは風水害による不作のためであり右の事由を原告において諒解していたことが明かである。(執行文の付与をうけた日が右小作料を受領してから数ケ月後である事実にかんがみるときは原告は右小作料の支払の延滯を猶予していたものとも解される。)

かように本件強制執行は形式上は適法であるがその内容に立入るときは以上のように信義に反するだけでなく買收をまぬかれるための強制執行とも考えられるのでかような場合右が自作農創設特別措置法第六条の二第二項第一号にいう賃貸借の解除解約が適法且つ正当であるときには該当しない。なお証人加藤正義の証言により認められる原告は田八反一畝畑九反七畝二十七歩(本件畑を含む)を自作し稼働人員は本人(三十七才)と五十六才の母二十二才二十才十八才の妹であり牛二頭を所有し訴外人妹尾与は自作地四反二畝二十二歩小作地八反二畝二十九歩であり本人は昭和二十三年十一月死亡したが稼働人員としては妻と二十一才と十九才の男子の三人であり牛三頭を所有している事実を参酌した場合にも本件農地を遡及して買收するのは改正前の同法附則第二項の遡及買收を相当とする場合に該当すると認むべきである。

以上のように本件は遡及買收を相当とする場合に該当するから訴外末吉町農地委員会がこれにつき遡及して買收計画を定めたのは適法でありこれを適法として原告の訴願を棄却した被告の裁決には何等違法の点はないよつて原告の本訴請求を棄却し行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鹿島重夫 中池利男 原清)

(目録省略)

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